生命と財産を守る行動

気象庁の震度階級で最も大きい震度7を2回も記録した熊本地震は最初の地震が前震、後の地震が本震と位置付けられていますが、どちらも夜に発生しました。

前震は平成28年4月14日21時26分、本震はその約28時間後の平成28年4月16日1時25分に発生しています。

前震発生以降数日間で、震度6の余震が5回、震度5の余震が11回、震度4の余震が約80回発生しました。

今回の熊本地震は前震と本震というきわめて珍しい地震でしたが、通常は最初に本震がきてそれから余震が続きます。

大きな地震の後、余震が来ることはわかっていますので余震に対する心構えはできます。

しかし、問題は通常最初に発生する大地震がいつ発生するかわからないことなんです。

土地柄、熊本は台風がよくやってきます。

台風は事前にやってくることがわかっているから準備ができますが、大地震は何の前触れもなく突然襲ってくるのが怖いんです。

その発生時間も朝か、日中か、はたまた夜か深夜か、まったくわかりません。

発生時間によって命を守る行動は変わってきます。

熊本地震は前震が起きていた夜(21時26分)、本震が寝ていた深夜(1時25分)に発生しました。

その時の経験から考えられる命を守る行動について説明したいと思います。

 

地震発生時はむやみに動かない

私は会社員時代、会社の防災訓練で起震車の体験をしたことがあります。

起震車(きしんしゃ)とは、「地震を擬似体験できる振動装置」を搭載した自動車のことで、トラックを改造して、荷台部分に振動装置・小部屋(地震体験室)が設置されているものです。

その小部屋(地震体験室)は、一般家庭のダイニングルームを模した雰囲気で、テーブル(安全のため固定)・椅子が設置されており、その様子を外から見えるようにしてあります。

当時若手社員だった私は上司から指名され、起震車に乗る羽目になったんです。

数百人の社員が見守る中、一般家庭のダイニングルームを模した起震車の小部屋の椅子に腰掛けました。

震度4から始まりましたが、震度5程度までは何とか腰掛けていられました。

最後に関東大震災の震度7を再現された時、椅子から転げ落ち会場は大爆笑の渦に巻き込まれました。

訓練の後、多くの人から「お前、笑いを取るためにワザとやったんだろう」と何人にも言われましたが、冗談じゃなくあまりの揺れに耐えられなかったんです。

あれから20数年後、起震車ではなく本当の7の地震に遭遇するなんて夢にも思いませんでした。

それも2度も・・・

本当は動かないのではなく動けない

地震の際はテーブルの下などの安全な場所へとよく言います。

行動としては当然です。

しかし、そのようなことができるのは震度5強、もしくは震度6弱までが精一杯ではないでしょうか。

熊本地震で最初に襲ってきた前震は21時26分、その時私は家内とソファーでくつろぎながらテレビを見ていました。

最初は小さな揺れでしたので、たまにある小さな地震かなと思いました。

すると突然地鳴りとともに大きく揺れだし家内が悲鳴を上げて私に抱き着いてきました。

東京で暮らしていた時、震度5程度の地震は何度か経験していましたが、今回の揺れはそれと比較にならないくらい凄まじく尋常ではありませんでした。

携帯電話の緊急地震速報が鳴り響く中、私は家内を抱きしめるのが精一杯でした。

私も家内もソファーに座っていたため事無きを得ましたが、立っていたら転倒していたに違いありません。

すぐ近くにダイニングテーブルがあり、その下に潜り込もうとも思いましたが、とても立ち上がることなどできなかったと思います。

幸い座っていたソファーの周りに落下、転倒しそうなものはなく、動かない方が安心だととっさに判断できました。

震度7のような激しい揺れでは立っていることさえままなりません。

大きな揺れの際、周囲を見渡して落下、転倒してきそうな物がなければ、そこでじっと身をかがめて揺れが収まるのを待つ方がいいと思います。

下手に動いてしまうと、揺れで転倒したりする危険があります。

もし、自分の近くに落下、転倒してきそうな物があれば、とにかくそれが回避できそうなところまで最小限移動し、そこでじっと身をかがめて揺れが収まるのを待ちましょう。

揺れは長くても数分で収まります。

その間はむやみに動かず身の安全を第一に、揺れが収まってからの次のアクションに備えましょう。

 

寝床は安全な場所に

熊本地震ではマグニチュード6.5、 震度7の前震の後にさらに規模の大きなマグニチュード7.3、 震度7の本震が発生しました。

前震、本震ともに気象庁の震度階級で最も大きい震度7でしたが、体感的には後に起こった本震の方がはるかに揺れが大きかったと思います。

この本震は深夜1時25分に発生しました。

私もそうですが、前震の片づけに追われ熊本の人たちの多くが疲れてぐっすり眠っていたはずです。

寝ている最中に大きな揺れに襲われると全く身動きが取れません。

おまけに停電してしまうので家の中の外も真っ暗闇です。

聞こえるのは携帯電話の緊急地震速報と近所の人たちの悲鳴です。

ものすごく怖いです。

就寝中に大地震に襲われたら、正直なす術がないんです。

ですから、ベッドであれ布団であれ寝床は安全な場所に確保しましょう。

安全な場所とは倒れてきたり、落ちてくるものがない場所です。

タンスや本棚などの家具も倒れます。

照明も落ちてきます。

もし、今寝ている場所のそばに倒れてきそうな家具があれば、家具を移動させるか、寝床を別の場所に移すか寝床を見直した方がよいと思います。

照明もLED照明ですと落下の危険性は低いと思いますが、昔ながらの鎖で天井から吊り下げてあるような照明は落下する危険があります。

実際、実家の仏間にある和風の吊り下げ照明は畳の上に落下していました。

ですから、吊り下げ照明の場合はできるだけ照明の下に寝ないこと。

それが無理なら、照明の下に頭をもってこないことです。

寝床は最悪の事態が起きない場所に確保しましょう。

懐中電灯などの照明はできるだけ寝床の近くに

深夜の大地震では停電になった場合、真っ暗闇の世界です。

揺れが収まっても家の中は危険がいっぱいです。

倒れた家具、割れたガラスや陶器が家中に散乱しています。

実際私も割れた陶器を踏んで足をケガしました。

一旦揺れが収まると、人間は次の行動に移ります。

しかし、そこにも危険がいっぱいなんです。

ですから、懐中電灯などの照明をできるだけ寝床の近くに備えておけば次の行動をより安全に進めることができます。

後から気付いたんですが、携帯電話のバックライトを利用すればよかったと思いました。

私はスマホを枕元に置いて就寝します。

スマホの灯りは懐中電灯ほどではありませんが、部屋の中をうっすら照らす程度の明るさはあります。

私のように揺れが収まった後、真っ暗な中をむやみに動いてしまうと割れたガラスや陶器を踏んでケガをする羽目になってしまいます。

もし、懐中電灯やスマホなどの灯りが寝床の近くになければ、家の中の家具の配置を考え布団などで足許を払いながら少しずつ動くようにしましょう。

 

火気はすぐ消す

熊本地震は前震が21時26分、本震が1時25分に発生しましたので、調理などで火気を使用しているお宅は少なかったと思います。

実際、阪神淡路大震災のような火事はあまりありませんでした。

しかし、自身はいつ何時襲ってくるかわかりません。

もし熊本地震が調理をしているような時間帯に発生したらどうなったでしょう。

天ぷらなんて揚げていたら、あの揺れで揚げ油の鍋が飛んでは大やけどです。

火事も多発したことでしょう。

よく言われていることですが、もし調理など火気を使っている際に地震に襲われたら火気の元はすぐ消しましょう。

あの揺れでは正直そんなことができるのか疑問ですが、先ずは身の安全確保が優先ですが、その次に火気の元を絶つことが大切です。

揺れは長くとも数分で収まります。

先ずは身の安全を優先し、揺れが収まったら火気の確認が大切です。

火事になれば家やそのほかの財産が失われてしまいます。

あくまでも命、その次に財産です。

 

ブロック塀から離れる

屋外の被害で最も甚大だったのがブロック塀の倒壊でした。

古くに作られたブロック塀はかなりの確度で倒壊していました。

外を歩いている際に大地震に見舞われた場合、ブロック塀の下敷きになることも考えられます。

外にいる時大きな揺れを感じて、もしブロック塀のそばにいるのであればブロック塀から離れましょう。

その際は走行している車にも充分注意して下さい。

 

大地震は曜日や時間帯に関係なく突然襲ってきます。

熊本地震は震度7の揺れが夜と深夜に発生しました。

ここでの説明は私自身の体験に基づいていますので、どうしても夜や深夜の事を中心になってしまいましたが、大地震は通勤・通学の途中、会社や学校にいる時発生するかもしれません。

どのようなシチュエーションで地震に遭遇するかはわからないのです。

日頃から自身の生活パターンに基づいたシミュレーションを想定し、実際に大地震に遭遇した際は決して慌てないことが大切です。

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